本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)

第18回:熟成古酒の味には伸びがある

長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎

本郷先生近影熟成古酒の芳醇さは年月を重ねれば重ねただけ造出され、人々を楽しませてくれる。年月と共に細やかさが”織り込まれ”て、出来上がる。

その味は3000倍に希釈してもなお感じるといわれる。お湯で割ってテストしてみると、わき立つ香りと味の伸びはそのまま、素直にのど元を通る。香りの主役はソトロンと日本では名づけられた旨味成分である。

一般の吟醸酒に仕込水を30%位加水すると、この酒はほとんど酒の形を崩し、水の感覚になる。この酒に濃熟型の10年以上の熟成古酒3、4滴を入れると、アルコール度数は低いままだが、再び酒の味を取り戻す。このテストには皆さんがビックリするばかりである。

熟成古酒はブレンドに向く。ブレンドすることで、その主張を実現できる。お酒の表示規約では1%でも若い酒が入れば、若い酒の表示年数となる。しかし、このブレンドによって新たな酒が出来上がる。ブレンドの基礎となる酒は濃熟型の”解脱”した酒であり、ほんの僅かばかりの量で充分である。

もちろん、一つのタンクのみの酒は醸造された年数を記し、ヴィンテージものとして売られている。現状はそれがほとんどである。ブレンド酒を造るためには、多様の熟成古酒を持つ必要がある。熟成古酒復興を目指して30年の年月を経て今、ブレンド酒を創造出来るメーカーがいくつか生まれつつある。

ロンドンで今年9月に開かれたインターナショナル・ワイン・チャレンジ2009で日本酒の審査が行われた。「純米」「純米吟醸・大吟醸」等のほか「熟成古酒」等5部門に分かれ、受賞酒が決定された。

日本国内ではまだ熟成古酒の認知度が足りないが中、世界では既にこの部門の審査を3回行っている。世界の認識と日本の認識の差を感じる。最優秀賞「チャンピオン・サケ」を受賞したのは金紋秋田酒造(秋田県大仙市)の古酒「山吹1995」。720ミリリットルで1万円の商品である。

本朝食鑑江戸時代の酒造メーカーは清酒以外の色々なリキュールを製造し、販売している。

江戸時代の書物に『本朝食鑑』がある。当時のあらゆる食べ物に関して、その性質や効能などを著した辞典の様な書だが、それには、梅酒の造り方について「好い古酒五升・白砂糖七斤を合わせ」とあり、ヤマモモの楊梅酒では「好い古酒三升・砂糖一合を」などと、古酒が使用されていたことが分かる。

次回は、熟成古酒が注ぐ容器によって、味が大きく変化するという話を紹介する。

(Kyodo Weekly 2009.9.14号掲載)