蔵元リレー連載コラム:熟成古酒を極める!(休載中)

第1回:長期熟成酒への取組み (初孫)

東北銘醸株式会社代表取締役 佐藤淳司

東北名醸佐藤社長

「初孫」醸造元
東北名醸 佐藤淳司社長

全国の蔵元に先駆けわが社が長期熟成酒に取り組みはじめたのは昭和40年代の前半のこと、そのきっかけとなったのは吟醸の熟成酒となります。その頃の吟醸酒といえば、試験的に吟醸酒の醸造にトライしても、その酒が売れる市場のない時代でした。今でこそ日本酒ファンなら誰もが飲んだことのある吟醸酒ですが、当時はそんな酒があることさえ知られておらず、せっかく良い酒を造っても売れなかったわけです。ところが幸いなことに、わが社には煉瓦に囲まれた特製の冷蔵庫がありました。すでに吟醸酒の価値の高さに気づいていた製造責任者より、「デキの良い酒はとりあえず冷蔵庫にぶち込んでおけ」とのことになりました。

さて、「初孫」の酒名は昭和のはじめに当家に長男が生まれたことから付けられたのですが、当人は蔵を継がずに映画や料理の世界に身を投じました。そして立ち上げたレストランが、後に全国的に名を知らしめた「ル・ポットフー」などです。

フランス料理を大吟醸熟成古酒で

フランス料理を
大吟醸熟成古酒で

フランス料理といえば飲み物は当然ワインとなるわけですが、蔵元出身の彼ならではの発想から日本酒でフランス料理を嗜むことができないかと考え、早速実家に掛け合ってみました。思案した製造責任者がひらめいたのが「冷蔵庫に寝かせたままの吟醸酒がある!」。そして誕生したのが、「秘蔵初孫」です。従来の日本酒ではこってりしたソースを使ったフランス料理を引き立てることができませんでしたが、5年以上も特製の冷蔵庫で熟成の時を過ごした「秘蔵初孫」には濃い味わいに負けない腰の強さが備わっていました。しっかりした上にまろやかさが兼ね合わさった酒質と、上品な吟醸の味わいはフランス料理に見事にマッチし、酒田のレストランでしか飲めないその酒は全国にその名を轟かせたのでした。

また、わが社の長期熟成酒に関するエピソードをもう一つ紹介しましょう。昭和40年代の後半のこととなりますが、日本酒業界に「原酒ブーム」が巻き起こりました。当然のことながら初孫でも原酒の商品開発に立ち向かってはみましたが、一方で新商品は原酒を詰めただけで良いのかとの議論が社内ではじまりました。「せっかく出すのだったら、他の蔵にはない初孫ならではの商品にしよう」との思いで発売したのが、単なる原酒ではなく3年以上貯蔵させた「古酒三歳」です。発売して40年近く経ちますが、白い陶器に詰まったこの酒は今でも初孫の人気商品です。

最後にわれわれの長期熟成酒に対して取り組む姿勢は、昭和40年代から今でも変わらないままです。20年以上も冷蔵貯蔵庫で熟成させた純米酒の商品化や、最近では値頃感も兼ね備えた「山田錦熟成純米酒」の発売など商品の開発から、料理との相性をはじめとした研究まで、長期熟成酒研究会とともに挑んで参りますので、今後ともお引き立てくださいますようお願いいたします。

2009年4月 東北銘醸株式会社 代表取締役 佐藤淳司

■初孫の熟成古酒■

初孫秘蔵酒「初孫-秘蔵」…価格は要問い合わせ/300ml
昭和40年代より酒田のレストラン「ル・ポットフー」で提供されていた熟成酒の先駆けとなる大吟醸。
≪合う料理≫フランス料理
熟成年数:8年
タイプ:淡熟
種別:大吟醸
酸度:1.3
アミノ酸度:1.1
アルコール度:16.0%
原料米:山田錦
精米歩合:45%

初孫三歳「初孫 古酒三歳」…720ml/2,063円(税込)
熟成によってまろやかさが増したのみ応えのある本醸造原酒。白い陶器の熟成酒ベストセラー。
≪合う料理≫ 鰻のかばやき、豚の角煮、鮎の甘露煮
熟成年数 :6年
タイプ:中間
熟マーク認定商品
種別 :本醸造
酸度:1.6
アミノ酸度:1.8
アルコール度:16.5%
原料米:トヨニシキ
精米歩合:65%

初孫低温熟成 「初孫 低温熟成純米酒」…7,350円/720ml
★熟マーク認定商品
重厚さと上品さを兼ね備えた味わい。低温貯蔵庫で20年以上熟成させた稀有なタイプの熟成酒。
≪合う料理≫
山形牛のすき焼き、鮭の粕漬け、さざえの酒盗煎
熟成年数:23年
タイプ:中間
種別:純米
酸度:1.6
アミノ酸度:1.6
アルコール度:17.4%
原料米:ヨネンロ
精米歩合:60%

※このデータは平成21年6月当時のものです。価格など変動する恐れがあります。ご購入の際は蔵元へ直接お問い合わせ下さい。