長期熟成酒研究会では、「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」を熟成古酒と定義しています。
熟成古酒は吟醸酒、純米酒、本醸造酒などの「特定名称酒」ではないため、ラベルへの表示規定がありません。そのため、「熟成酒」「長期熟成」「秘蔵酒」などと書かれていても1、2年で出荷されているものもあります。こういった年数のものは熟成古酒というよりは、「ひやおろし」や「秋あがり」のような味の調和や円熟味を考慮した商品であるといえます。
そのため「“熟成古酒”を飲んでみたい!」「“熟成古酒”を楽しみたい!」という消費者の方にどういった商品が“熟成古酒”と呼ばれ、美味しい商品なのかとハッキリ表示する必要があります。長期熟成酒研究会では優れた熟成古酒にシールを貼ることで消費者の皆様に分かりやすい表示を心がけております。
熟成古酒のタイプ
熟成古酒には、一般に以下の3点の違いから、様々なタイプの商品が考えられます。
- 醸造の仕方
- 貯蔵・熟成の仕方
- 熟成年数
こういった点をふまえ、大きく分類したものが「熟成古酒のタイプ」です。
タイプ | 醸造方法 | 熟成温度 | 特徴 | 相性の良い料理 |
---|---|---|---|---|
濃熟タイプ | 本醸造酒 純米酒 |
常温熟成 | 熟成を重ねるにつれ、照り、色、香り、味が劇的に変化、風格を備えた個性豊かな熟成古酒 | 中華料理、脂分の多い料理、濃厚な旨みと甘みのある食べもの(ビターチョコレート、焼肉、ブルーチーズ、焼き鳥(タレ)、カレー) |
中間タイプ | 本醸造酒 純米酒 吟醸酒 大吟醸酒 |
低温熟成と常温熟成を併用 | 低温熟成から常温熟成へ、またはその逆の貯蔵法により、濃熟タイプと淡熟タイプの中間の味わいを実現した熟成古酒 | ほどよい甘味、酸味、苦味のある食べもの(酢豚、牛しゃぶしゃぶ、干しぶどう、チョコレートなど) |
淡熟タイプ | 吟醸酒 大吟醸酒 |
低温熟成 | 吟醸酒の良さを残しつつ、ほどよい苦味と香りが渾然一体となった、幅のある深い味わいの熟成古酒 | フランス料理、甘味・脂肪が少なく旨み成分が多い食べもの(生ハム、イカの塩辛、ロールキャベツ、グラタン、チーズなど) |
また、“自家熟適正酒”というお酒もあります。これはご家庭で簡単に熟成が楽しめるように蔵元が独自に開発しているお酒で、様々な工夫がほどこされています。お子様やお孫さんが生まれた記念や結婚記念などに熟成を始め、大切な方たちとグラスを合わせる未来へと夢を託す…そんなロマン溢れるお酒です。
清酒のタイプ分類における熟成古酒の位置
従来、清酒の分類は製造法に基づいて行われていました。いわゆる、「特定名称酒」と呼ばれるものです。しかし、この分類方法は一般の消費者の方にわかりにくいこと、この分類の枠の外に位置する日本酒が登場してきたことなど、問題点も指摘されていました。
そこで、日本酒造組合中央会では、ワイン業界関係者などからの意見も取り入れ、飲み口(香りと味わい)と料理の相性を重視した新しい分類方法を提案しています。4つに分類された日本酒は、以下の通りです。
- 薫酒・・・華やかな薫り、軽快な飲み口、大吟醸酒など
- 爽酒・・・香り控えめ、キレのある飲み口、本醸造酒など
- 醇酒・・・香り控えめ、コクのある飲み口、純米酒など
- 熟酒・・・重厚な香り、旨みを伴うほどよい酸味と苦味、熟成古酒
これによると、熟成古酒も、日本酒の味わい、料理との相性、味覚の上では一人前の評価を受けており、4つの分類の一角を占める存在であることがわかります。
日本酒は古くなると酢になるのでは?
熟成古酒の説明をする際、最も多く受ける質問が「日本酒は古くなると酢になるのではないのですか?」というものです。そこから、「熟成古酒」=「古い日本酒」=「酢」といったイメージを持たれる方も少なくないようです。
日本酒はよほどのことが無い限り、勝手に酢にはなりません。
日本酒を酢にするには、「酢酸菌」を日本酒に植え付け、その上で放置する必要があります。また、「火落菌」による「火落ち」は、酢酸菌による酢酸発酵とは別の現象です。
なぜ、このような俗説が信じられるようになったのか、経緯は定かではありません。しかし、現在では、長期熟成酒研究会や各酒造メーカー、そして研究機関などの研究により、日本酒を熟成させると、酢酸発酵や火落ちとは全く異なる、様々な化学変化が起こることがわかってきております。
熟成古酒は身体に優しいお酒
長期熟成酒は、飲んだ後の「酔い覚めの良さ」が特徴です。江戸時代の「訓蒙要言故事」には、「新酒は、頭ばかり酔う。熟成酒は、からだ全体が潤うように気持ち良く酔う」と書かれています。熟成した酒の身体に対する優しさは、最近の医学会でも報告されています。
身体に対する優しさだけではなく、熟成古酒は味もとても優しく感じると思います。この「やさしい」原因が「熟成」にあります。
現在、熟成古酒に含まれるアルコールそのものの熟成に関して、以下に述べる2つの変化が見られるとの説が提唱されています。
- エチルアルコール分子を取り込んでいる水の集合が大きくなり、まろやかになる。
- 水の分子の集合の隙間にアルコール分子が入り込み、まろやかになる。
この説に従い、新酒と熟成古酒の2つのお酒のエチルアルコールの状態を図示したものが、右図です。新酒ではアルコールがむき出しの状態で存在するため、エタノールの刺激臭が強く味もきつくなり、熟成古酒になると水のクラスター(結合塊)が小さくなり、アルコール分子を取り囲むため、アルコールが水に包まれた状態で鼻や舌に感じられ、香りも味もやわらかくなるのではないか、そう考えられています。