梁井顧問連載コラム:熟成古酒の魅力(連載中)

第5回:熟成の科学(2)・物理的熟成

長期熟成酒研究会顧問 梁井宏

長期熟成酒研究会 梁井顧問

長期熟成酒研究会
梁井顧問

2 物理的熟成

ウイスキーやブランデーなどの蒸留酒が長い年月の貯蔵で熟成し、香味が良くなり、円熟味の増した素晴らしい酒になることは良く知られています。清酒やワインのような醸造酒は、その中に含まれる成分が非常に多く、熟成による変化は化学的なものに囚われがちですが、熟成により、新酒時の刺激的なアルコールの味や匂いが消え、やわらかく飲みやすくなる現象は、化学的な変化だけでは説明できません。

(1)新酒のアルコールと水のクラスター

新酒では、アルコール分子が独自の集団(アルコール分子も水素結合によって集団を作る)を形成している上に、水分子のクラスターも大きい。アルコール分子は水の集団のすき間に入りこめず、いわば、アルコール分子がむき出しの状態になっているため、エタノールの刺激臭が強く、味もきつく感じます。

(2)熟成酒のアルコールと水のクラスター

熟成をさせる過程で、弱い振動などによって水分子、アルコール分子のそれぞれの集団が壊れて小さくなり、アルコール分子が水分子のクラスターのすき間に入りこみます。分かり易くいえば、水分子がアルコール分子を包み込むのです。こうなった酒は、まろやかな味になります。