本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)

第5回:多様な熟成古酒

長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎

本郷先生近影「満三年以上熟成させた糖類添加酒を除く清酒」と定義され、「淡熟」「濃熟」「中間」の3タイプに分類。今回は、皆さんも熟成古酒のエキスパートへの道を一緒に歩いてみませんか。

淡熟タイプは、吟醸を一定期間、低温(±4℃くらい)に保った後、蔵内常温(15~18度くらい)で熟成。吟醸の柔らかさ、香り、味の調和といった素晴らしさが年とともに伸び、変化は穏やか。これに対し、濃熟タイプは伝来の酒で、当初から常温熟成。香り、味、発色も大きく変化。甘口に感じ、のど越しが力強く、風格がある。中間タイプは、この両者の特徴を併せ持つ欲深い酒で、低温から常温、常温から低温など独自の経過を持たせ、歳月とともに濃熟タイプに近づいていく。

熟成古酒は常に生きて変化、熟成している酒で、それぞれに個性を持っている。共通することは紫外線のカットと、無濾過である必要がある。オリが下がる量の多少は、使用した原料米に含まれる米タンパクの量により、熟成の度合いを示す。麹(アスペルギルス・オリゼ)の持つ酵素作用で機能性のあるアミノ酸に分解されたもので、瓶熟では瓶上部に細かい粒子、瓶底には粒子の大きなものが沈下、付着し、年月とともに瓶を黒色に近く染めていく。その形状は麹の量とも大きく関連している。

達磨正宗「聖胎長養」昭和47年醸造熟成古酒は、熟成度が進み、ひとつのレベルに達すると「解脱」と呼ばれるスッキリ下した調和現象を見せ、それは熟成する酒の内容、熟成温度によって異なっている。低温熟成の吟醸では12~13年くらい、常温熟成の濃熟タイプでは7、8年、アルコール度数の高いもの、高温度で酸を出した酒などは22年目以降にその現象が現れる。

約10年前、消費者自ら熟成、育てる酒として一気に「オール麹」の酒を造り出した。これは従来にない造り方で、熟成の進み方が早く、熟度による調和は初年度から抜群。オール麹仕込みの中での生もとと、山廃、吟醸が試みられ、酸との、あるいは香りとの調和など、女性層に人気が高まりつつある酒になっている。熟成古酒を時々利いているだけだと、ある年突然、解脱したように思ってしまう。しかし、毎年続けて利くと、その解脱の時は何年後か大体予想ができる。その後も熟成を深め「帝王の酒」へと進み、その変化に驚くことになる。

生酒も熟成は当然に進み、柔らかな調和を示すが、開栓後の再熟成は消費者の方にはお勧めしない。熟成によるオリのバロメーターで、そのオリ酒を飲みたいというグループがある。柔らか味の調和は、一度飲むと忘れられない。そこに麹菌のはたらきに関する研究が重なれば、一層熟成古酒の需要が出るとみている。

次回は、流通段階で消費者自らのコレクションづくりの状況を報告したい。

(Kyodo Weekly 2008.8.11号掲載)