白木顧問連載コラム:長期熟成酒の歩みと将来について(全8回)

第7回:これからの展望について

合資会社白木恒助商店会長・長期熟成酒研究会顧問 白木善次

昨今の酒をとりまく風潮のうち、酒の酔いに対する拒否反応のようなものがあると云われています。

現に、私の熟成酒のファンである地元の大学の先生は、学生達が飲酒を避けたがると嘆いておられます。車社会の影響、健康志向等、飲酒経験を重ねる機会が減少していることなどの条件が思い当たります。

日本人の飲酒は、酔うことを第一義として続けられてきたという、民族学的な考察もあると云われていますが、酔っ払いが許されないという時代、どういう風に日本酒に親しんでもらうかということが問われていると思います。そこで前述もしましたが、諸外国のあちこちで、何故酒を熟成し、尊重するのか?

かって、わが国でも、古くは鎌倉時代の、日蓮上人の古文書にのこされた「人の血を絞れる如くなる古酒、云々」という様に、歴史的に長い間飲まれて来たことも多く文書などにも記されています。

飲酒は、高揚感を伴い、精神的な開放感もあるとされていますが、一方では、失敗を生ずるものでもあり、身体的なリスクもあるもので、二日酔いなどのマイナス面もあります。私は飲酒の欲求と、それらのマイナス面の間を埋めてくれるのが、熟成酒の良さではないかと考えます。

時間を吸い込んで出来た酒は、いずれも個性的であり、味は豊かでしかも余韻も長いですから、多量の飲酒とはなり難いことは、私も体験しています。

熟成した酒が体に優しいことは、多く語りつがれて来ていますが、現在の健康志向に合うものと思います。飲酒が社会的条件に左右されるということは、とりも直さず、その酒質自体も変化をして行かざるを得ないということになると思います。多分に行政的な規則の中で作られて来た、現在の一般的な酒質を、日本人の食生活に起こった歴史的なグローバル化とその中で生じた嗜好の変化に対応する為にも、もっと広義に、米と黄麹を用いる酒の文化をもう一度掘り起こしてみることが大切な時期にさしかかっているのではないかと思います。熟成酒の商品展開としては、ヴィンテージものとして、年々の出来具合を楽しんで頂く流れと、記念の年の酒として、珍重されるという側面もあります。

因みに小社では、平成元年から同二十年までの、ヴィンテージコレクションも商品化しています。

一つの商品を発売した場合、例えば「だるま正宗十年古酒、同二十年古酒」などでは、そのリピーターに対して、出来るだけブレの少ないものを提供する責任が生ずる訳ですから、これは前述の如く、ブレンド酒の領域に属することになります。いずれにしましても、今までの日本酒に無かった、アペリティフやデザート酒としてのジャンルそのものが、ゆっくりとではありますが確実にそれを嗜好するお客様が広がりつゝあると実感しています。

次に熟成酒の、もう一つとして、リーズナブルな価格による商品展開があります。

充分に熟成したものは、それを、ベースとなる、比較的若い酒質のものにブレンドすることにより、従来の日本酒の香味とは、少々異なるタイプのものを提供することが出来ます。

当社のきき酒室で、又、私の個人的な飲酒の機会などでも、このブレンド酒や、三年、十年、二十年などのものを並べて、それらの感想などを聞いてみますと、元来日本酒を好まないという人が、このブレンド酒や三年熟成酒なら好みに合うといわれる事がしばしばあります。十年、二十年熟成のものは、従来のそれとは全く別物となっていますから、戸惑う人も多いですが、このブレンド酒などは、従来の延長線上にありながら、新しい味覚として受け入れららる様です。これ等のものは濃熟なタイプへの入門酒としての性格も兼ね備えてもいます。これ等の商品は、ベースとなる酒に対して、濃厚なものなら3%から多くても10%もあれば、一つのタイプを造り上げることが可能で、資金面からも比較的楽であると云えます。その他、熟成に要する資金の一部を早く回収する為に考えましたのが「未来へ」と名づけて発売した商品です。それは長年タンク貯蔵をしてきた経験を生かし、お客様の手元で、熟成を楽しんでいただくというもので、結婚記念、赤ちゃんの誕生記念など、それぞれのオリジナルラベルを着けたりの趣向を
こらしたりして販売促進を計っております。この商品は、特許も取得しています。近年、雑種の製造免許を得てからは、熟成酒を用いた梅酒の製造販売にも力を注いでいます。