白木顧問連載コラム:長期熟成酒の歩みと将来について(全8回)

第4回:熟成の開始(2)

合資会社白木恒助商店会長・長期熟成酒研究会顧問 白木善次

酒質の経年変化を見ると言いましても、年一回の呑み切り時に、それ等の酒のきき酒をするということだけであり、一年単位での変化はそれ程顕著に現れるものではなかった様に思いますが、それ等の内でも普通純米の濃厚タイプのものなどは変化の速度が速く、吟醸系のものは遅いという傾向は初期の頃から気がつく程の差があったと思います。どの様な酒質のものがどの位の年月でどんな変化を遂げるのかということは、当初手探りのことでありましたが酒は当然老化熟成して行くのが当たり前であると思っていましたので、変化は楽しみであり当時の主流でありましたヒネの防止という思いは全くありませんでした。

熟成開始当初、火落ちの危険を心配しており、私なりに考えましたのは、成分の多い甘口の純米酒等、例えばマイナス20度以上というもので、アルコール度数16%台という様なものについては、特に火入れ温度を高めにする様に杜氏さんに強く依頼したこともありました。

通常の貯蔵期間とは異なるわけでありますので、火入れ時のタンクの洗浄など、基本的な部分には充分に注意を払っていたと思います。

貯蔵開始から7、8年を経過しました頃からそれらの味、香りの特徴がはっきりと現れて差別化が進んで来ましたが、私の興味はやはり濃厚なタイプの方に傾いて来まして「My古酒」は赤みを帯びた褐色のソトロン香のあるものと、それに近いエリアにあるものということになりました。

従って、昭和50年代中頃をもって吟醸造りを休止致しましたが、その時の一つの問題は、当時意欲のある杜氏さんに吟醸造りを断念してもらうことを告げることは雇用関係にもかかわることでもありました。しかしすでに熟成酒用の造りに関わってきて頂いていた杜氏さんは了承してくれまして、それまでの経験の継続ができました。

以上、小社としての大まかな基本的な製造方法というものが出来、その成分にある程度の差こそあれ毎年一定量の貯蔵をして来ていたのですが、その途中に気づいた課題の一つにオリの沈降がありました。オリの発生は当然生ずることであり、その酒質により量、色調などに差があることが判ってきました。