本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)

第14回:風格ある熟成古酒に

長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎

本郷先生近影自家熟成の期間をどのくらいに設定したらいいか。7~8年か、20年以上を目指して豊潤で調和と風格のある“成人古酒”を望むか、あるいは結婚50年を祝う“金婚古酒”とするか-。

ケース単位で熟成させ、何年かごとに利いていくという楽しみ方もある。また、毎年その年ごとに作っていくと、年によっての酒の出来具合を確認、味わうことが出来る。生まれた孫の顔写真をレッテルにして、何年か後の誕生日に頂くという話も聞くようになった。

良い熟成古酒を造るためには、まず、それに適する酒を選ぶべきである。

下越酒造の「時醸酒」できれば生酒は避けたい。生酒でも立派な熟成古酒になるものもあるが、ひとたび開栓すると火落菌(乳酸菌の一種)が繁殖する危険がある。第一に紫外線(UV)のカットである。光の届かぬ場所を選びたい。UVカットを万全にするためには新聞紙による完全包装がいい。社会面が載っているものを利用すれば、開けるときに熟成を開始した当時の社会情勢を知ることが出来る。

熟成させる酒、新聞紙での包装の上に小さなレッテルに生産年度、酒の種類、瓶詰年月、メーカー名、必要事項を記入して張り付けておく。

熟成が進行してくると、含まれる酸の一部が分解してくるので、酸が1.0~1.1ぐらいのものは避け、1.3以上、長く熟成させるものは3.0以上あっても“丸み”は素晴らしいものになる。マディラワインの100年以上のものも、3.0以上のものが柔らかい酒に成長する。山ブドウも、採った時に甘い感じのものでなく酸を強く感じる方が10年以上にもなると柔らかいものになる。

麗人酒造熟成古酒造りが盛んだった江戸時代には、麹を現在の倍くらい使用。最適の麹の分量は総原料の37%位といわれ、これによって酸を確保すると同時にコメのタンパクを澱として除去し、スッキリした古酒を造っていた。昭和40年代に長野県須坂市にあったメーカーが麹を2度に渡って使用する仕込をしていたという事実もある。熟成古酒には二日酔いがないと言い伝えられていたことも、造った動機の一つでなかったとか。

熟成温度が高いとすぐ悪くなるとの観念が強く残っているが、香り高い吟醸酒や純米酒の場合、香りが早く変化し、全体のバランスを崩すことになる。このため、香り成分とアルコール分と水分との間でクラスター(分子集合体)が出来るまでは、4度以下の低温に保つのが望ましい。酒によって期間は異なるが、10~12ヶ月冷蔵庫に入れておく必要がある。それ以後は蔵内常温といわれる15~18度だと熟成の進行が良い。通常の純米酒、本醸造などは最初から常温で熟成を始める。

次回は熟成古酒を造るのに適する酒を紹介する。

(Kyodo Weekly 2009.5.11号掲載)