蔵元リレー連載コラム:熟成古酒を極める!(休載中)

第4回:熟成という価値を知る (花垣)

有限会社南部酒造場 代表取締役 南部隆保

南部酒造場南部社長

「花垣」醸造元
南部酒造場 南部社長

年号が昭和の終わり頃、中国を訪問した時のことである。日本酒の素晴らしさを教えるつもりで「大吟醸」を持参した。酒や食に詳しい中国人との宴席となった。食事はもちろん中華料理、白酒(パイジウ)と黄酒(ファンジウ)が準備されていた。白酒は長期熟成の茅台酒(マオタイジウ)、黄酒は花彫陳年紹興酒(シャオシンジウ)、が控えめに置かれていた。これは、私が特別の日本酒を披露することに対する飲み比べの挑戦を意味していた。

中国を代表する酒の取り揃えである。白酒は華北・内陸部、紹興酒は華南と飲まれる地域が違うようだ。こちらは焼酎を持って来ていないのでオールジャパンとはいえないが、鑑評会金賞酒の大吟醸で一戦交えるつもりである。そして、中国人をあっと驚かせる魂胆であった。

「乾杯!」、茅台酒で始まった。50~60度の一気飲みは胃にしみわたる。乾杯、字のごとく杯を乾さなくてはならない。強烈なエステル(カプロン酸・酢酸エチル等)、靴下の蒸れた臭い、セメダイン臭・・・「臭い」。しかし、何度か飲んで飲み慣れるとその匂いは気にならなくなり、やがて「悪くない香りだ」、「よい香りだ」と思えるようになる自分がいる。乾杯の嵐が過ぎると紹興酒となった、最初は常温で後に温めたものが出てきた。甘い芳香、濃醇でまろやか、とろりとした奥深い味わい、「これはすごい」。

酔っぱらう前に大吟醸を飲ませなければ、準備よろしく持参の大吟醸で乾杯となった。「エッ、いつもと違う?」、皆さんおいしいとは言うものの、この程度かという顔色はぬぐえない。「しまった、飲む順番が違った」。そうだ、日本酒は繊細なのである。「カプロン酸エチルと酢酸イソアミル等のフルーティで華やかな上立ち香、上品に広がる口中香、醴醇でふくらみがあり、すっきりとした、切れの良い味わいで、後味がよく上品。まさに繊細なる美味のしずく」というリアクションを期待していた。しかし、先に飲んだものが強烈なエステル、次に飲んだものが濃くて深いもの、このあとでは比較にならない、失敗であった。

「そうだ、新酒だ」。口々に言われたことは、「青臭い」「日本の大吟醸は青二才」、確かにそうかもしれない、若々しさが取り柄だった、飲み比べて私もそう感じた。「中国四千年の酒の文化は熟成の歴史だ、日本の文化はまだ浅い」と言わんばかりである。熟成とは、まろやかで調和のとれた深みのある味わい、奥深さや風格、貴賓。つまり、時が刻んだ芸術であることを初めて知って、その衝撃に脱帽した。長期熟成の不思議と魅力を知り、「目から鱗」ならぬ「口中が開眼」した一瞬であった。

2009年12月 「花垣」醸造元 有限会社南部酒造場 代表取締役 南部隆保

■南部酒造場の熟成古酒■

花垣大吟醸十年熟成『大吟醸拾年古酒』…5,250円/720ml
★熟マーク認定商品
使用酵母:9号
日本酒度:+5
酸度:1.6
アミノ酸度:1.5
アルコール度:15.5
使用原料米:山田錦80%、五百万石20%
精米歩合:45%
保存方法:冷暗所

花垣大吟醸5年熟成『大吟醸伍年古酒』…3,150円/720ml
★熟マーク認定商品
使用酵母:9号
日本酒度:+5
酸度:1.6
アミノ酸度:1.5
アルコール度:15.5
使用原料米:山田錦80%、五百万石20%
精米歩合:45%
保存方法:冷暗所

 

花垣純米5年熟成『純米伍年古酒』…2,625円/720ml
★熟マーク認定商品
使用酵母:7号
日本酒度:+5
酸度:1.8
アミノ酸度:1.7
アルコール度:15.5度
使用原料米:五百万石100%
精米歩合:60%
保存方法:冷暗所

 

※このデータはH21年6月のものです。価格など変動する恐れがありますので、購入の際は蔵元へ直接お問い合わせ下さい。